December 08, 2005

悠久の風

 
いつものように  あの家に帰ろう

夢に破れたら   あの街に帰ろう

愛に疲れたら   あの国に帰ろう

いつの日にか   あの星に帰ろう


いつまでも、忘れない 遠き日の記憶と
まだ見ぬ友よ そう、君のために


 
虹が出たなら    あの家に帰ろう

愚痴が出たなら   あの街に帰ろう

涙が出たなら    あの国に帰ろう

何も無くても     あの星に帰ろう


いつだって、忘れない 明日への意欲と
もう会えぬ友よ そう、君のために


      (Final Fantasy オープニングテーマにのせて)


 
 
小さい頃から、物書きに憧れていた僕ですが
こと「詩作」という部分に関して言えば
自分でもがっかりするくらいセンスがありませんでした。
ですから、詩という形で書き残しているものは
ほとんど無いのですが
上記のものは、その数少ない中のひとつです。
この詩が気に入っているだとか、内容に自信があるだとか
そういう意味で残したのでは有りません。
ある人物との思い出を忘れないために残したのです。


その人は、大学のサークルの先輩でした。
僕が所属していたそのサークルは
登山中心のアウトドアサークルだと謳っていたので
僕も参加したのですが、その実態は
アウトドアを餌に女子大生を勧誘して仲良くなろうとする
ただのナンパサークルでした。
非道い話、山に全く登らない人も少なくなかったのです。

そんな中で、女性には目もくれず
黙々と山に登り続ける僕のような存在は
あっという間に周囲から浮き始めました。
女性陣から敬遠されるようになったのは勿論
女性と仲良くする事が目的である大半の男性からも
疎まれるようになってしまいました。

そんな中で、登山を一切しないのに
なぜか僕と仲良くしてくれる先輩がいました。

その先輩は、僕からしたら、すごく不思議な人でした。
登山はおろか、アウトドア自体が好きじゃない。
さりとて、女性目的でサークルにいる感じでもない。
「とにかくみんなでワイワイと騒ぐのが好き」
そんな理由でサークルに居るような感じでした。
また、洋楽やアメフトが大好きという
ちょっとマニアックな所もありまして、僕と会うと必ず

「○○ちゃん、今日もガンダムのネタで盛り上がろうよー」

などと笑顔で話しかけてきたものです。
山に登らない連中とは、ほとんど喋らなかった僕ですが
山はおろか、完全にインドア派であるその先輩とは
何故か仲良くしていました。

そして、その先輩が
大学4年生になったある日、突然

「○○ちゃん、一番かっこいい山って、どこやろ?」

と聞いてきたのです。
僕はまさか、その先輩が山に登る気で聞いているとは
想像もしてなかったので

「そりゃあ、槍ヶ岳でしょう。どえりゃーカッコいいですよ」

なんて、何気なく答えたのですが

「へえー。そうなんやー。・・・じゃあ、俺、その山に登ってみるわ」

と、その先輩はあっさりと言いました。

僕は吃驚して、 「本気ですか?!」 と
何度も聞き返しました。すると


「うん。○○ちゃんいつも 『山は良い、山は良い』って言いよるやろ?
○○ちゃんがそこまで言うんやから、きっと面白いんだろうから
一度くらい登っておこうかなーって思うたんよ」

先輩は、そう言いました。
僕はその時、この先輩とだけは仲良く出来た理由が
なんとなく理解できた気がしました。
と同時に、僕も一緒に槍ヶ岳に行って
必ず素晴らしい山行にしたいと強く感じました。

普段は計画なんて他人任せだった僕ですが
このときだけは、積極的に動きました。
僕が選んだのは、燕岳から大天井岳を経て槍ヶ岳に向かう
通称 「アルプス銀座」と呼ばれる人気のコースです。
ここなら、絶えずあのカッコいい槍ヶ岳を見ながら登れるのです。

満を持して選んだコースでしたが
言うまでも無く、山の天気は不安定なもの。
燕岳から大天井岳に向かう初日に
晴れ間が見えることは一度もありませんでした。
視界ゼロで、景色も見えず
雨の中ひたすら難所といわれる合戦尾根などを登り続ける。
普段は登山もアウトドアもしない先輩が
こんな事で楽しんでくれているか、それだけが気がかりでした。

二日目になり、初日よりは天気も良くなりましたが
相変わらず視界は良くありませんでした。
行った事が無い人には、信じられないかも知れませんが
山で視界が悪くなると、10m先ですら見えなくなるのです。
その日の宿泊予定は、槍ヶ岳山頂まで
あと1時間という位置にある、殺生ヒュッテ。
晴れていたら、圧倒される程の威容を拝む事が出来るのですが
その日は、本当に山頂付近なのかと疑いたくなる程
影も形も見えませんでした。
山ではありがちな話なのですが
たえず槍ヶ岳の雄姿を拝める事が売りのコースなのに
結局、まったくその姿を見ることなく頂上付近に
到着してしまったのです。

頼むから晴れてくれ・・・という僕の願いも空しく
360度のパノラマを誇る槍ヶ岳の山頂に着いても
霧が晴れる事は有りませんでした。
それでも、岩場を初めて体験した先輩は
「十分、山を堪能できたよ。ありがとう」 と言ってくれたのですが
僕としては、どうしても槍ヶ岳の姿を
先輩に見せてあげたかったので、残念な気持でいっぱいでした。

しかし、そんな寂しい気持で殺生ヒュッテに戻っていくと
その時遂に、それまで槍ヶ岳を覆っていた厚い霧が風に流されて
槍ヶ岳の、あの、尖った容姿が顕になったのです。

「センパイ!。槍!。槍の山頂が見えますよ!。カッコいいでしょ!?」

僕はかなり興奮気味に、センパイに叫びました。

「ほんまカッコええな。あの山、とっきんとっきんに尖っとるやないか。
 こんな近くにあったのに気付かんかったんやなぁ、山って凄いなぁ」

先輩もとても感激してくれたので
僕は嬉しくて嬉しくて、仕方が有りませんでした。
そこからは、それまでの悪天が嘘だったかのように
綺麗に晴れ渡ったので、いつまでも
いつまでも槍ヶ岳の雄姿を拝む事が出来ました。
っていうか、それだけでは飽き足らずに
もう一度、二人で山頂にアタックしてしまいました。

そして夜には、二人で満天の星空をずっと眺めました。

星と、空と、岩。
それ以外は視界に入ってきません。
そして、岩に染み入るかのような静寂。
流れ星を見ようと二人で粘っていたら、先輩がふと

「ここにいると、地球じゃないみたいやね。宇宙みたいや。
 別の惑星に来たみたいな感じやねー。」

と言いました。
確かにここは別の惑星みたいだ、僕は同意しました。

「またいつか、この星に、一緒に来ようね」

そう先輩が言うと、僕は何だか嬉しくなって
うん、うん、と何度も頷きました。
その時に、あの詩の前半のフレーズが浮かんだのです。


そして、詩の後半のフレーズが浮かんだのは
先輩が卒業してから2年後。
先輩の告別式の時でした。


死因は、突然死。
夜に寝て、朝になったら冷たくなっていたそうです。

告別式では、スライドで先輩の生前の姿が映し出されました。
それによって先輩が卒業してから
ニュージーランドにトレッキングに行ったり
エアーズロックに行ったりしていた事を知りました。

あの、インドア派の先輩が
ちゃんと山を続けてくれていたんだ・・・。
自分は、葬式で泣くなんて事は無いだろうと思っていたのですが
涙がこぼれるのを抑えることが出来ませんでした。

告別式の帰り、呆然と歩いていると
ふと、あの槍ヶ岳での星空を思い出しました。

「いつかまた、あの星に行こう」

あの時浮かんだ、あのフレーズと
もう逢えないという気持ち。
その二つが、僕にとっては違和感のない感じで
一つの詩になったのです。


おそらく、詩作をすることは
これからもほとんどないだろうと思いますが
出来の良し悪しに関係なく
この詩だけは、なんらかの形で残していきたくて
blogに載せてしまいました。

最後まで読んでいただいて、ありがとうございました。


 
 

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